X線作業主任者の過去問の解説:生体(2025年4月)
ここでは、2025年(令和7年)4月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問31~問40)」について解説いたします。
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問31 放射線感受性に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)小腸の絨(じゅう)毛先端部の細胞は、腺窩(か)細胞(クリプト細胞)より放射線感受性が高い。
(2)骨組織は、一般に放射線感受性が低いが、小児では比較的高い。
(3)皮膚の基底細胞層は、角質層より放射線感受性が高い。
(4)細胞周期の中で、S期(DNA合成期)初期は、S期後期より放射線感受性が高い。
(5)細胞周期の中で、G1期(DNA合成準備期)初期は、G2期(分裂準備期)後期より放射線感受性が低い。
(1)は誤り。小腸の絨毛先端部の細胞は成熟しており、分裂能が低いため放射線感受性は低いです。一方、腺窩(クリプト)細胞は活発に分裂する未分化細胞であり、放射線感受性が高いです。
(2)は正しい。骨組織は一般に放射線感受性が低いですが、小児では骨の成長が活発なため、感受性が高くなります。
(3)は正しい。皮膚の基底細胞層は細胞分裂が盛んなため、角質層より放射線感受性が高いです。
(4)は正しい。細胞周期において、S期初期は放射線感受性が高く、S期後期は感受性が低下します。
(5)は正しい。G1期初期は放射線感受性が低く、G2期後期は感受性が高いため、記述は正しいです。
問32 放射線によるDNAの損傷と修復に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線によるDNA損傷には、塩基損傷とDNA鎖切断があるが、間接電離放射線では、塩基損傷は生じない。
(2)DNA鎖切断のうち、二重らせんの片方だけが切れる1本鎖切断は、細胞死などの重篤な細胞障害に関連が深い。
(3)細胞には、DNA鎖切断を修復する機能があり、修復が誤りなく行われれば、細胞は回復し、正常に増殖を続けるが、塩基損傷を修復する機能はない。
(4)DNA鎖切断の修復方式のうち、非相同末端結合修復は、DNA切断端どうしを直接結合する方式である。
(5)DNA鎖切断のうち、2本鎖切断はDNA鎖の組換え現象が利用されるため、1本鎖切断に比べて容易に修復される。
(1)は誤り。間接電離放射線でも、塩基損傷は生じます。
(2)は誤り。1本鎖切断は通常修復可能であり、重篤な細胞障害に直結することは少ないです。
(3)は誤り。細胞には塩基損傷を修復する機能も備わっています。
(4)は正しい。非相同末端結合修復は、DNA二重鎖切断の修復方式の一つで、切断端同士を直接結合する方式です。
(5)は誤り。2本鎖切断は1本鎖切断より修復が困難であり、容易に修復されるわけではありません。
問33 次のAからCの人体の組織・器官について、放射線感受性の高いものから順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
A 神経線維
B 肺
C 皮脂腺
(1)A,B,C
(2)B,A,C
(3)B,C,A
(4)C A,B
(5)C,B,A
C:皮脂腺は、比較的放射線感受性が高い臓器です。
B:肺は、中程度の感受性を持ちます。
A:神経線維は、分裂能が低いため、放射線感受性が最も低いです。
問34 生体に対する放射線効果に関する次のAからDの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 半致死線量は、被ばくした集団中の個体の50%が一定期間内に死亡する線量であり、動物種の放射線感受性を比較するときなどに用いられる。
B 平均致死線量は、ある組織・臓器の個々の細胞を死滅させる最小線量を、その組織・臓器全体にわたり平均した線量で、この値が大きい組織・臓器の放射線感受性は高い。
C 全致死線量は、半致死線量の2倍に相当する線量であり、この線量を被ばくした個体は数時間~数日のうちに死亡してしまう。
D 生物効果比(RBE)は、基準となる放射線と問題にしている放射線とが、同じ生物効果を与えるときの各々の吸収線量の比であり、線質の異なる放射線による生物効果を比較する場合に用いられる。
(1)A,B
(2)A,C
(3)A,D
(4)B,C
(5)B,D
Aは正しい。半致死線量(LD50)は、被ばくした集団の50%が一定期間内に死亡する線量であり、動物種の放射線感受性比較に用いられます。
Bは誤り。平均致死線量は、細胞の放射線感受性の指標として用いられ、細胞の生存率曲線においてその細胞集団のうち37%が生存するときの線量です。
Cは誤り。全致死線量が半致死線量の2倍とは限らず、個体差があります。
Dは正しい。生物効果比(RBE)は、異なる放射線の生物効果を比較する際に用いられる指標です。
問35 エックス線の直接作用と間接作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)エックス線光子と生体内の水分子を構成する原子との相互作用の結果生成されたラジカルが、直接、生体高分子に損傷を与える作用が直接作用である。
(2)エックス線光子によって生じた二次電子が、生体高分子の電離又は励起を行うことによって、生体高分子に損傷を与える作用が間接作用である。
(3)エックス線が生体に与える影響は、直接作用によるものより間接作用によるものの方が大きい。
(4)生体中にシステイン、システアミンなどのSH基を有する化合物が存在すると放射線効果が軽減されることは、主に直接作用により説明される。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量のエックス線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って酵素の全分子のうち不活性化されるものの占める割合が増加することは、直接作用により説明される。
(1)は誤り。ラジカルによる損傷は、間接作用に該当します。
(2)は誤り。二次電子による損傷は、直接作用に該当します。
(3)は正しい。エックス線が生体に与える影響は、間接作用によるものの方が大きいです。これは、水分子の放射線分解によって生成されるラジカルがDNAなどの生体高分子に損傷を与えるためです。
(4)は誤り。SH基を有する化合物による放射線効果の軽減は、主に間接作用に関連しています。
(5)は誤り。このような酵素の濃度と不活性化の関係は、間接作用によるものです。
問36 放射線による身体的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)身体的影響には、その重篤度が、被ばく線量に依存するものとしないものがある。
(2)白内障は、眼の水晶体上皮の被ばくによる障害で、晩発影響に分類される。
(3)放射線による不妊は、晩発影響に分類される。
(4)白血病以外の放射線による発がんは、一般に、がん好発年齢に達したころから増加するので、被ばく時の年齢が若いほど潜伏期が長くなる。
(5)放射線による白血病は、被ばく線量が大きくなるほど潜伏期が短くなる。
(1)は正しい。身体的影響には、重篤度が被ばく線量に依存する確定的影響と、依存しない確率的影響があります。
(2)は正しい。白内障は晩発影響に分類されます。
(3)は誤り。放射線による不妊は、早期影響に分類されます。
(4)は正しい。放射線による発がんは、被ばく時の年齢が若いほど潜伏期が長くなる傾向があります。
(5)は正しい。放射線による白血病は、被ばく線量が大きくなるほど潜伏期が短くなります。
問37 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)末梢(しょう)血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低い。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)末梢(しょう)血液中の血球数の減少は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢(しょう)血液中のリンパ球は、被ばく直後、一時的に増加が認められる。
(5)末梢(しょう)血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。
(1)は正しい。末梢血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低いです。
(2)は誤り。造血幹細胞が存在するのは骨髄であり、脊髄ではありません。
(3)は誤り。1Gy程度の被ばくでも、末梢血液中の血球数の減少が認められることがあります。
(4)は誤り。末梢血液中のリンパ球は、被ばく直後に減少します。
(5)は誤り。血小板の減少は出血傾向を招き、感染に対する抵抗力の低下は白血球の減少によるものです。
問38 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)確率的影響では、被ばくした集団中の影響の発生確率は、被ばく線量の増加とともに増加する。
(2)遺伝的影響には、確率的影響に分類されるものと確定的影響に分類されるものがある。
(3)早期影響は、全て確定的影響に分類される。
(4)確定的影響では、障害の重篤度は、被ばく線量に依存する。
(5)しきい線量は、確定的影響には存在するが、確率的影響には存在しないと考えられている。
(1)は正しい。確率的影響では、被ばく線量の増加とともに影響の発生確率が増加します。
(2)は誤り。遺伝的影響は、確率的影響に分類されます。確定的影響には分類されません。
(3)は正しい。早期影響は、全て確定的影響に分類されます。
(4)は正しい。確定的影響では、障害の重篤度が被ばく線量に依存します。
(5)は正しい。しきい線量は、確定的影響には存在しますが、確率的影響には存在しないと考えられています。
問39 ヒトが一時に全身にエックス線の照射を受けた場合の早期影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)1~2Gy程度の被ばくで、放射線宿酔の症状が現れることがある。
(2)被ばくから死亡までの期間は、一般に造血器官の障害による場合の方が、消化器官の障害による場合より長い。
(3)3~5Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(4)消化器官の障害を主因とする死亡までの期間は、5~20日程度である。
(5)5~10Gy程度の被ばくによる死亡は、主に中枢神経系の障害によるものである。
(1)は正しい。1~2Gy程度の被ばくで、放射線宿酔の症状が現れることがあります。
(2)は正しい。造血器官の障害による死亡までの期間は、消化器官の障害による場合より長いです。
(3)は正しい。3~5Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(4)は正しい。消化器官の障害を主因とする死亡までの期間は、5~20日(概ね10日)程度です。
(5)は誤り。5~10Gy程度の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものであり、中枢神経系の障害によるものではありません。中枢神経系の障害による死亡は、20Gy以上の高線量被ばく時に見られます。
問40 胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)着床前期の被ばくで胚はい死亡に至らず、発育を続けて出生した子供には、発育遅延が生じやすい。
(2)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(3)胎内被ばくのうち、奇形の発生するおそれが最も大きいのは、胎児期の被ばくである。
(4)胎内被ばくを受け出生した子供にみられる精神発達遅滞は、遺伝的影響である。
(5)器官形成期の被ばくは、奇形を起こすおそれはないが、出生後、身体的な発育遅延が生じるおそれがある。
(1)は誤り。着床前期の被ばくでは、「全か無か(All or None)の法則」が働くとされ、ある程度の線量以上では胚死亡、そうでなければ正常に発育する傾向があります。発育遅延が生じやすいというのは誤りです。
(2)は正しい。奇形の発生は器官形成期の被ばくによって起こり、確定的影響とされます(しきい線量あり、重篤度が線量に依存)。
(3)は誤り。奇形発生のリスクがあるのは器官形成期です。胎児期は、中枢神経への影響(精神発達遅滞)などが発生するおそれがあります。
(4)は誤り。精神発達遅滞などの影響は、被ばくによる身体的影響であり、遺伝的影響(生殖細胞の変異)ではありません。
(5)は誤り。器官形成期の被ばくは、奇形を引き起こす可能性がある時期です。この記述のように「奇形を起こすおそれはない」というのは明確な誤りです。
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