X線作業主任者の過去問の解説:生体(2016年10月) | エックス線作業主任者 講習会・通信講座

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X線作業主任者の過去問の解説:生体(2016年10月)

ここでは、2016年(平成28年)10月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。

それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。

X線作業主任者の過去問の解説:管理(2016年10月)
X線作業主任者の過去問の解説:法令(2016年10月)
X線作業主任者の過去問の解説:測定(2016年10月)
X線作業主任者の過去問の解説:生体(2016年10月)



問11 細胞の放射線感受性に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A 細胞分裂の周期の中で、M期(分裂期)は、S期(DNA合成期)後期より放射線感受性が高い。
B 細胞分裂の周期の中で、G1期(DNA合成準備期)後期は、G2期(分裂準備期)初期より放射線感受性が高い。
C 線量を横軸に、細胞の生存率を縦軸にとりグラフにすると、ほとんどの哺乳動物細胞では一次関数型となり、バクテリアではシグモイド型となる。
D 細胞の放射線感受性の指標として用いられる平均致死線量は、細胞の生存率曲線においてその細胞集団のうち半数の細胞を死滅させる線量である。

(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D


答え(1)
Aは正しい。細胞分裂の周期は、G1期→S期→G2期→M期の順に進み、細胞が増殖していきます。
どの周期で放射線が照射されるかによって、放射線感受性(放射線影響の受けやすさ)が異なります。
もっとも放射線感受性が高いのはM期で、G1期後期からS期前期にかけても高くなっています。
Bは正しい。Aの解答を参照してください。
Cは誤り。生存率のグラフは、哺乳動物細胞ではシグモイド型となり、バクテリアでは指数関数型となります。
Dは誤り。平均致死線量は、細胞内の全ての標的に平均して1個ずつの放射線のヒットを生じる線量のことで、細胞の放射線感受性の指標として用いられます。



問12 組織加重係数に関する次のAからDまでの記述のうち、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A 組織加重係数は、各臓器・組織の確率的影響に対する相対的な放射線感受性を表す係数である。
B 組織加重係数が最も大きい組織・臓器は、脳である。
C 組織加重係数は、どの組織・臓器においても1より小さい。
D 被ばくした組織・臓器の平均吸収線量に組織加重係数を乗ずることにより、等価線量を得ることができる。

(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D


答え(2)
Aは正しい。組織加重係数は、致死がんや遺伝的影響に着目し、各臓器・組織の放射線影響の受けやすさを表した係数となっています。ちなみに、組織加重係数の「加重」は、「荷重」と書くこともあります。
Bは誤り。脳などの神経系は、放射線影響を受けにくい組織です。ICRP2007勧告における脳の組織加重係数は0.01で、骨髄などは0.12、生殖腺は0.08となっています。
Cは正しい。組織加重係数は全身を合計すると1になるように設定されています。そのためどの組織・臓器においても1より小さくなります。
Dは誤り。組織加重係数は、等価線量から実効線量を求める際に用いられます。



問13 放射線による身体的影響に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合わせは(1)~(5)のうちどれか。

A 再生不良性貧血は、2 Gy程度の被ばくにより、末梢(しょう)血液中のすべての血球が著しく減少し回復不可能になった状態をいい、潜伏期は1週間以内で、早期影響に分類される。
B 白内障は、眼の水晶体上皮の被ばくによる障害で、晩発影響に分類される。
C 晩発影響の一つである白血病の潜伏期は、その他のがんに比べて長い。
D 晩発影響には、その重篤度が、被ばく線量に依存するものとしないものがある。

(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D


答え(4)
Aは誤り。エックス線を慢性的に被ばくした場合には、白血球、血小板、赤血球すべての血球が慢性的に減少する再生不良性貧血に陥ることもあります。再生不良性貧血は晩発影響に分類されます。
Bは正しい。白内障では眼の水晶体が白く混濁し、まぶしさを感じたりモノが見えにくくなったりします。
Cは誤り。血液のがんといわれる白血病の潜伏期は、その他のがんに比べて短いのが特徴です。
Dは正しい。たとえば、発がんは、その重篤度が被ばく線量に依存しません。しかし、白内障は、その重篤度が被ばく線量に依存します。



問14 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)末梢(しょう)血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低い。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)人の末梢血液中の血球数の変化は、被ばく量が1 Gy程度までは認められない。
(4)末梢血液中の血球のうち、被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。


答え(1)
(1)は正しい。リンパ球だけは例外で、造血器官中だけでなく末消血液中でも放射線感受性が高いのです。
(2)は誤り。脊椎はいわゆる背骨です。脊椎の中には、刺激の伝導路である脊髄という神経の束があります。造血器官である骨髄と、名前は似ていますが機能はまったく異なります。
(3)は誤り。血球数の変化は、0.25 Gy程度から現れます。
(4)は誤り。被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板ではなく、赤血球です。
(5)は誤り。白血球が減少すると感染に対する抵抗力が弱くなり、血小板が減少すると出血傾向(出血しやすくなる)が現れ、赤血球が減少すると貧血が起こります。



問15 ヒトが一時に全身にエックス線の照射を受けた場合の早期影響に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A 1~2 Gy程度の被ばくで、放射線宿酔の症状が現れることはない。
B 3~5 Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
C 被ばくした全員が60日以内に死亡する線量の最小値は、約4 Gyであると推定されている。
D 被ばくから死亡までの期間は、一般に消化器官の障害による場合の方が、造血器官の障害による場合より短い。

(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D


答え(4)
Aは誤り。放射線宿酔の症状(頭痛や吐き気など)は、1 Gy程度の被ばくで現れます。
Bは正しい。
Cは誤り。被ばくしたヒトの「半数」が60日以内に死亡する線量は、約4 Gyであると考えられています。4 Gyはヒトの半致死線量です。
Dは正しい。



問16 放射線の被ばくによる確率的影響と確定的影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)確率的影響では、被ばく線量が増加すると影響の発生確率も増加する。
(2)遺伝的影響は、確率的影響に分類される。
(3)確定的影響では、被ばく線量と影響の発生確率との関係が、シグモイド曲線で示される。
(4)確定的影響の発生確率は、実効線量により評価される。
(5)確定的影響では、障害の重篤度は、被ばく線量に依存する。


答え(4)
(1)(2)(3)(5)は正しい。確率的影響と確定的影響に関する問題は頻出ですので、過去の問題もしっかりチェックしておきましょう。
(4)は誤り。「確率的影響」の発生確率は、実効線量により評価されます。



問17 生物学的効果比(RBE)に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。

A RBEは、次の式で定義される。
RBE=ある生物学的効果を引き起こすのに必要な基準放射線の吸収線量/同一の効果を引き起こすのに必要な対象放射線の吸収線量
B RBEは、線質の異なる放射線を被ばくした集団の生存率の比により表すことができる。
C RBEは、線質と線量が同じ放射線であっても線量率の大小によって一般に異なった値となる。
D RBEは放射線のLETに依存する値で、100 keV/μm付近で極小値を示すが、これを超える範囲では、LETの増大とともに大きくなる。

(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D


答え(2)
Aは正しい。RBEの式は覚えておきましょう。分子が「基準放射線の吸収線量」、分母が「対象放射線の吸収線量」です。
Bは誤り。RBEは、同じ生物学的効果をもたらすのに必要な吸収線量の比により表すことができます。
Cは正しい。
Dは誤り。RBEは、100 keV/μm付近で最大値を示します。しかし、これを超える範囲では、LETの増大とともに小さくなります。



問18 放射線の生体に対する作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)放射線によって水分子がフリーラジカルになり、これが生体高分子を破壊し、細胞に障害を与えることを直接作用という。
(2)エックス線などの間接電離放射線により発生した二次電子が生体高分子を電離又は励起し、細胞に障害を与えることを間接作用という。
(3)生体中にシステインなどのSH基を有する化合物が存在すると放射線効果が軽減されることは、直接作用により説明される。
(4)生体中に存在する酸素の分圧が高くなると放射線効果が増大することは、間接作用では説明できない。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて同一線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子数のうち不活性化されたものの占める割合が増大することは、間接作用により説明される。


答え(5)
(1)は誤り。水分子がフリーラジカルになり、細胞に障害を与えるのは、間接作用です。
(2)は誤り。二次電子が細胞に障害を与えるのは、直接作用です。
(3)は誤り。SH基(チオール基)を持つ化合物が、フリーラジカルと反応することで、結果的に間接作用による障害を軽減します。これを保護効果や防護効果といいますが、間接作用により説明されることです。
(4)は誤り。酸素の分圧が高くなると放射線効果が増大することは、酸素効果といわれます。酸素効果は、直接作用と間接作用の両方で説明できます。
(5)は正しい。



問19 放射線による遺伝的影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)生殖腺が被ばくしたときに生じる障害は、すべて遺伝的影響である。
(2)親の体細胞に突然変異が生じると、子孫に遺伝的影響が生じる。
(3)胎内被ばくを受け、出生した子供にみられる発育遅延は、遺伝的影響である。
(4)小児が被ばくした場合には、遺伝的影響が生じるおそれはない。
(5)倍加線量は、放射線による遺伝的影響を推定する指標とされ、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりにくい。


答え(5)
(1)は誤り。生殖腺が被ばくしたときに生じる障害は、遺伝的影響のほか、不妊などの身体的影響もあります。
(2)は誤り。親の「生殖細胞」に突然変異が生じると、子孫に遺伝的影響が生じるおそれがあります。
(3)は誤り。胎内被ばくによる放射線影響は、身体的影響です。胎児は個体(ひとりのヒト)として考えるからです。
(4)は誤り。小児が被ばくした場合でも、将来子孫を残すときに遺伝的影響が生じるおそれがあります。
(5)は正しい。



問20 胎内被ばくに関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)着床前期に被ばくして生き残った胎児には、発育不全がみられる。
(2)胎内被ばくを受けて出生した小児にみられる精神発達の遅滞は、確率的影響に分類される。
(3)胎内被ばくのうち、奇形の発生するおそれが最も大きいのは、胎児期の被ばくである。
(4)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(5)胎内被ばくによる奇形の発生のしきい線量は、ヒトでは5 Gy程度である。


答え(4)
(1)は誤り。着床前期の被ばくでは、胚の死亡が起こることがありますが、生き残った胎児には放射線影響はみられません。
(2)は誤り。精神発達の遅滞のほか胎児への影響は、「確定的影響」に分類されます。
(3)は誤り。器官形成期の被ばくでは、奇形が発生するおそれがあります。
(4)は正しい。
(5)は誤り。奇形発生のしきい線量は、ヒトでは0.1 Gy程度と推定されています。

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