X線作業主任者の過去問の解説:生体(2017年10月)
ここでは、2017年(平成29年)10月公表の過去問のうち「エックス線の生体に与える影響に関する知識(問11~問20)」について解説いたします。
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問11 放射線の細胞に対する影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)細胞分裂の周期のM期(分裂期)の細胞は、S期(DNA合成期)後期の細胞より放射線感受性が高い。
(2)細胞分裂の周期のG1期(DNA合成準備期)後期の細胞は、G2期(分裂準備期)初期の細胞より放射線感受性が高い。
(3)皮膚の基底細胞は、角質層の細胞より放射線感受性が高い。
(4)小腸の絨毛先端部の細胞は、腺か細胞(クリプト細胞)より放射線感受性が高い。
(5)将来行う細胞分裂の回数の多い細胞ほど放射線感受性は一般に高い。
(1)(2)(3)(5)は正しい。
(4)は誤り。腺か細胞は、細胞分裂を行う幹細胞で、小腸の絨毛先端部の細胞より放射線感受性が高くなっています。
問12 放射線の直接作用と間接作用に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線により水分子がフリーラジカルになり、これが生体の細胞に損傷を与える作用が直接作用である。
(2)間接電離放射線により生じた二次電子が、生体の細胞に損傷を与える作用が間接作用である。
(3)低LET放射線が生体に与える影響は、間接作用によるものより直接作用によるものの方が大きい。
(4)生体中にシステインなどのSH基を有する化合物が存在すると放射線効果が軽減されることは、直接作用により説明される。
(5)溶液中の酵素の濃度を変えて一定線量の放射線を照射するとき、酵素の濃度が減少するに従って、酵素の全分子のうち不活性化されるものの占める割合が増加することは、間接作用により説明される。
(1)は誤り。エックス線によって生じた二次電子が、生体高分子の電離又は励起を行い、生体高分子に損傷を与える作用が直接作用です。
(2)は誤り。エックス線光子と生体内の水分子を構成する原子との相互作用の結果生成されたラジカルが、生体高分子に損傷を与える作用が間接作用です。
(3)は誤り。エックス線などの低LET放射線が生体に与える影響は、間接作用が主役になります。
(4)は誤り。SH基(硫黄と水素の化合物)を有する化合物は、ラジカルと結合して放射線効果を軽減してくれます。これは間接作用により説明されることです。
(5)は正しい。
問13 放射線の被ばくによる確率的影響及び確定的影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)確定的影響では、被ばく線量と障害の発生率との関係は指数関数で示される。
(2)確率的影響では、被ばく線量の増加とともに、単位線量当たりの障害の発生率が増加する。
(3)確定的影響では、被ばく線量が増加すると、障害の重篤度が大きくなる。
(4)確定的影響の程度は、実効線量により評価される。
(5)遺伝的影響は、確定的影響に分類される。
(1)は誤り。確定的影響では、被ばく線量と障害の発生率との関係は『シグモイド曲線(S字状曲線)』で示されます。
(2)は誤り。この選択肢のように「単位線量当たりの障害の発生率が増加」するのであれば、被ばく線量が増えれば増えるほど、急激に障害の発生率が増加することになります。確率的影響では、被ばく線量と障害の発生率は、比例直線で示されます。
(3)は正しい。その通りです。
(4)は誤り。確定的影響の程度は、等価線量により評価されます。一方、確率的影響の程度は、実効線量により評価されます。
(5)は誤り。遺伝的影響は、確率的影響に分類されます。
問14 放射線被ばくによる白内障に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)放射線により眼の水晶体上皮細胞に障害を受けると、白内障が発生する。
(2)白内障は、早期影響に分類される。
(3)白内障の重篤度は、被ばく線量には依存しない。
(4)白内障の潜伏期間の長さは、被ばく線量とは無関係である。
(5)放射線被ばくによる白内障は、その症状により、老人性白内障と容易に識別することができる。
(1)は正しい。
(2)は誤り。白内障は、被ばく後の潜伏期間が平均2~3年で、晩発影響に分類されます。
(3)は誤り。白内障は確定的影響ですので、その重篤度は被ばく線量に依存します。
(4)は誤り。被ばく線量が多くなれば、白内障の潜伏期間は短くなります。
(5)は誤り。白内障にかかる原因は様々ですが、老人性白内障は加齢が原因の白内障です。加齢とともにその発症率は増加しますが、70歳代で約80%の人が白内障になると言われています。ただし、老人性白内障と放射線が原因の白内障とは、識別することが困難です。
問15 ヒトが一時に全身にエックス線被ばくを受けた場合の早期影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)2Gy以下の被ばくでは、放射線宿酔の症状が現れることはない。
(2)3~4Gy程度の被ばくによる死亡は、主に造血器官の障害によるものである。
(3)被ばくした全員が、60日以内に死亡する線量の最小値は、約4Gyである。
(4)半致死線量(LD50/60)に相当する線量の被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものである。
(5)10~15Gy程度の被ばくによる死亡は、主に中枢神経系の障害によるものである。
(1)は誤り。放射線宿酔の症状は、1Gy程度の被ばくから現れます。
(2)は正しい。
(3)は誤り。被ばくした半数が、60日以内に死亡する線量は、約4Gyです。この線量は、個体の半数が死亡するときの線量なので、半致死線量と言われます。
(4)は誤り。半致死線量での死亡の原因は、主に造血器官の障害によるものです。
(5)は誤り。5~20Gy程度までの被ばくによる死亡は、主に消化器官の障害によるものです。
問16 エックス線被ばくによる造血器官及び血液に対する影響に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)末梢血液中の血球は、リンパ球を除いて、造血器官中の未分化な細胞より放射線感受性が低い。
(2)造血器官である骨髄のうち、脊椎の中にあり、造血幹細胞の分裂頻度が極めて高いものは脊髄である。
(3)人の末梢血液中の血球数の変化は、被ばく量が1Gy程度までは認められない。
(4)末梢血液中の血球のうち、被ばく後減少が現れるのが最も遅いものは血小板である。
(5)末梢血液中の赤血球の減少は貧血を招き、血小板の減少は感染に対する抵抗力を弱める原因となる。
(1)は正しい。リンパ球だけは、末梢血液中においても放射線感受性が高いことで知られています。
(2)は誤り。脊椎とは背骨のことで、その中には脊髄という神経の束が通っています。脊髄に造血機能はありません。
(3)は誤り。0.25Gy程度から、末梢血液中の血球数の減少が見られます。
(4)は誤り。減少は寿命の短い血球から始まり、寿命が最も長い赤血球は、最も遅く減少します。
(5)は誤り。血小板には止血作用がありますので、その数が減少すると出血傾向が見られます。
問17 生体に対する放射線効果に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 組織加重係数は、各組織・臓器の確率的影響に対する相対的なリスクを表す係数である。
B 倍加線量は、放射線照射により、突然変異率を自然における値の2倍にする線量であり、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりやすい。
C 酸素増感比(OER)は、生体内に酸素が存在しない状態と存在する状態とで同じ生物学的効果を与える線量の比であり、酸素効果の大きさを表すときに用いられる。
D 生物学的効果比(RBE)は、線質の異なる放射線を被ばくした各々の生物集団の生存率の比であり、線質の異なる放射線による生物学的効果を比較するとき用いられる。
(1)A,C
(2)A,D
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
A,Cは正しい。
Bは誤り。倍加線量の値が大きいほど、突然変異を2倍にするためにたくさんの線量が必要になるので、遺伝的影響は起こりにくいことになります。
Dは誤り。生物学的効果比(RBE)は、「生存率の比」ではなく『吸収線量の比』で表します。
問18 次のAからCまでの人体の組織・器官について、放射線感受性の高いものから順に並べたものは(1)~(5)のうちどれか。
A 毛のう
B 小腸粘膜
C 甲状腺
(1)A,B,C
(2)A,C,B
(3)B,A,C
(4)B,C,A
(5)C,A,B
「B:小腸粘膜」「A:毛のう(毛根が入っている袋)」「C:甲状腺(喉にあるホルモンを分泌する器官)」の順になります。
人体の組織・器官の放射線感受性について、並べ替えの問題はよく出題されます。
原則として、細胞分裂頻度が高いものほど、放射線感受性が高くなります。
問19 エックス線被ばくによる放射線皮膚炎の症状に関する次のAからDまでの記述について、正しいものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
A 0.2Gyの被ばくでは、皮膚の充血や腫脹がみられる。
B 3Gyの被ばくでは、一過性の紅斑や一時的な脱毛がみられる。
C 5Gyの被ばくでは、水疱や永久脱毛がみられる。
D 20Gy以上の被ばくでは、進行性びらんや難治性の潰瘍がみられる。
(1)A,B
(2)A,C
(3)B,C
(4)B,D
(5)C,D
B,Dは正しい。
Aは誤り。皮膚の充血や腫脹は、5~12Gy程度の被ばくで見られます。
Cは誤り。水疱や永久脱毛は、12~18Gy程度の被ばくで見られます。
問20 胎内被ばくに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)着床前期の被ばくでは胚の死亡が起こることがあるが、被ばくしても生き残り、発育を続けて出生した子供には、被ばくによる影響はみられない。
(2)器官形成期の被ばくでは、奇形が発生することがある。
(3)胎内被ばくにより胎児に生じる奇形は、確定的影響に分類される。
(4)胎児期の被ばくでは、出生後、精神発達遅滞がみられることがある。
(5)胎児期の被ばくによる奇形や発育不全は、遺伝的影響に分類される。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
(5)は誤り。胎内被ばくによる奇形や発育不全は、胎児自身への影響なので、身体的影響に分類されます。
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