X線作業主任者の過去問の解説:管理(2020年4月)
ここでは、2020年(令和2年)4月公表の過去問のうち「エックス線の管理に関する知識(問1~問10)」について解説いたします。
それぞれの科目の解説は、下記ページからどうぞ。
◆X線作業主任者の過去問の解説:管理(2020年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:法令(2020年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:測定(2020年4月)
◆X線作業主任者の過去問の解説:生体(2020年4月)
問1 エックス線管及びエックス線の発生に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)エックス線管の内部は、効率的にエックス線を発生させるため、高度の真空になっている。
(2)陰極で発生する熱電子の数は、フィラメント電流を変えることで制御される。
(3)陽極のターゲットはエックス線管の軸に対して斜めになっており、加速された熱電子が衝突しエックス線が発生する領域である実焦点よりも、これをエックス線束の利用方向から見た実効焦点の方が大きくなる。
(4)連続エックス線の発生効率は、ターゲット元素の原子番号と管電圧の積に比例する。
(5)管電圧がターゲット元素に固有の励起電圧を超える場合、発生するエックス線は、制動放射による連続エックス線と特性エックス線が混在したものになる。
答え(3)
(3)は誤り。実焦点よりも、実効焦点の方が「小さく」なるようにしてあります。
透過写真撮影では、実効焦点の寸法が小さいほど、像質のよい(細部が鮮明に写っている)写真を撮影できます。
下記のイラストでは、下の方がエックス線束の利用方向です。
現在は、焦点が数μmの大きさのマイクロフォーカスX線源が搭載された装置も利用されています。
(1)(2)(4)(5)は正しい。
問2 連続エックス線が物体を透過する場合の減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)連続エックス線が物体を透過するとき、平均減弱係数は、物体の厚さの増加に伴い大きくなる。
(2)連続エックス線が物体を透過すると、最高強度を示すエックス線のエネルギーは、低い方へ移動する。
(3)連続エックス線が物体を透過するとき、透過後の実効エネルギーは物体の厚さが増すほど高くなるが、物体が十分厚くなるとほぼ一定となる。
(4)連続エックス線は、物体を透過しても、その全強度は変わらない。
(5)連続エックス線が物体を透過するとき、透過エックス線の全強度が物体に入射する直前の全強度の1/2となる物体の厚さをHaとし、直前の全強度の1/4となる物体の厚さをHbとすれば、HbはHaの2倍である。
(1)は誤り。連続エックス線が物体を透過するとき、実効エネルギーが大きくなります。実効エネルギーが大きくなると、相互作用は起こりにくくなります。つまり、相互作用の起こりやすさである平均減弱係数は、物体の厚さの増加に伴い「小さく」なります。
(2)は誤り。最高強度を示すエックス線のエネルギーは、「高い」方へ移動します。また、エックス線のエネルギーが高くなることを、硬化するといいます。
(3)は正しい。
(4)は誤り。物体を透過すると、エックス線が減弱するため、その全強度は「小さく」なります。
(5)は誤り。連続エックス線が物体を通り抜けるとき、エネルギーの高いエックス線がたくさん残ります。
そのため連続エックス線の全強度を最初の2分の1にする物体の厚さ(Ha)と、4分の1にする物体の厚さ(Hb)を比較すると、HbはHaの「2倍よりも大きく」なります。
問3 下図のようにエックス線装置を用いて鋼板の透過写真撮影を行うとき、エックス線管の焦点から4mの距離にあるP点における写真撮影中の1cm線量当量率は160μSv/hである。
この装置を使って、露出時間が1枚につき2分の写真を週300枚撮影するとき、P点の後方に遮へい体を設けることにより、エックス線管の焦点からP点の方向に8mの距離にあるQ点が管理区域の境界線上にあるようにすることのできる遮へい体の厚さは次のうちどれか。
ただし、遮へい体の半価層は25mmとし、3か月は13週とする。
(1)10mm
(2)20mm
(3)30mm
(4)40mm
(5)50mm
答え(5)
この問題では、距離の逆2乗則と減弱の式を用いて、遮へい体の厚さを求めます。
まず、問題文で与えられている値から3か月の全照射時間を計算します。
なお、3か月単位にするのは、管理区域が1.3mSv/3か月を超えるおそれのある区域だからです。
照射時間=露出時間[min/枚]×週の撮影枚数[枚/週]×3か月の週数[週/3か月]
=2[min/枚]×300[枚/週]×13[週/3か月]
=7,800[min/3か月]
次の計算をしやすくするために、分単位から時間単位に直します。
7,800[min/3か月]÷60[min/h]=130[h/3か月]
この3か月の全照射時間にP点における写真撮影中の1cm線量当量率「160μSv/h」を掛けて3か月あたりの1cm線量当量率を求めます。
130[h/3か月]×160[μSv/h]=20,800[μSv/3か月]
次の計算をしやすくするために、μSv/3か月単位からmSv/3か月単位に直します。
20,800[μSv/3か月]÷1,000[μSv/mSv]=20.8[mSv/3か月]
続いて、距離の逆2乗則を用いて、焦点から8mの距離にあるQ点の3か月当りの1cm線量当量率を計算します。
なお、ここではQ点の3か月当りの1cm線量当量率をAとします。
A[mSv/3か月]/20.8[mSv/3か月]=42[m]/82[m]
A[mSv/3か月]=16[m]×20.8[mSv/3か月])/64[m]
A[mSv/3か月]=5.2[mSv/3か月]
続いて、今求めた「Q点の3か月当りの1cm線量当量率5.2mSv/3月」と「管理区域の境界の線量率1.3mSv/3月」、問題文ただし書きの「遮へい体の半価層は25mm」を、減弱の式に代入して、「エックス線管の焦点からP点の方向に8mの距離にあるQ点が管理区域の境界線上にあるようにすることのできる遮へい体の厚さ」を計算します。
なお、ここでは遮へい体の厚さをxとします。
1.3[mSv/3か月]=5.2[mSv/3か月] × (1/2)x[mm]/25[mm]
1.3[mSv/3か月]/5.2[mSv/3か月]=(1/2)x[mm]/25[mm]
1/4=(1/2)x[mm]/25[mm]
1/2×1/2=(1/2)x[mm]/25[mm]
(1/2)2=(1/2)x[mm]/25[mm]
左辺と右辺の指数の部分を抜き出すと次のようになります。
2=x[mm]/25[mm]
x[mm]=50[mm]
したがって、遮へい体の厚さは(5)50mmが正解です。
問4 工業用の一体形エックス線装置に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「工業用の一体形エックス線装置は、[ A ]とエックス線管を一体としたエックス線発生器と、[ B ]との間を[ C ]ケーブルで接続する構造の装置である。」
(1)[A]管電圧調整器 [B]制御器 [C]高電圧
(2)[A]管電圧調整器 [B]管電流調整器 [C]高電圧
(3)[A]高電圧発生器 [B]管電圧調整器 [C]高電圧
(4)[A]高電圧発生器 [B]制御器 [C]低電圧
(5)[A]管電流調整器 [B]管電圧調整器 [C]低電圧
一体形エックス線装置では、「エックス線発生器」と「制御器」を「低電圧」ケーブルで接続します。
また、今回は工業用の「一体形エックス線装置」の構成について出題されましたが、「分離形エックス線装置」について出題されることもあります。
問5 単一エネルギーで太い線束のエックス線が物体を透過するときの減弱を表す場合に用いられる再生係数(ビルドアップ係数)に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)再生係数は、1未満となることはない。
(2)再生係数は、線束の広がりが大きいほど大きくなる。
(3)再生係数は、入射エックス線のエネルギーや吸収体の材質によって異なる。
(4)再生係数は、吸収体の厚さが厚くなるほど大きくなる。
(5)再生係数は、入射エックス線の線量率が大きいほど大きくなる。
(5)は誤り。再生係数が影響を受ける要因は、「線束の広がり」「入射エックス線のエネルギー」「吸収体の材質」「吸収体の厚さ」です。
入射エックス線の線量率の影響は受けません。
そもそも再生係数は、物体を透過したエックス線のうち、測定器に入ってきた散乱線の割合です。
たとえ線量率が大きくなっても、その割合は変わりません。
(1)(2)(3)(4)は正しい。
問6 エックス線の散乱に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句又は数値の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「エックス線装置を用い、管電圧100kVで、厚さが20mmの鋼板及びアルミニウム板のそれぞれにエックス線のビームを垂直に照射し、散乱角135°方向の後方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定してその大きさを比較したところ、[ A ]の後方散乱線の方が大きかった。
次に、同じ照射条件で、鋼板について、散乱角120°及び135°の方向の後方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定し、その大きさを比較したところ、[ B ]方向の方が大きかった。
また、同じ照射条件で、鋼板について、散乱角30°及び60°の方向の前方散乱線の空気カーマ率を、照射野の中心から2mの位置で測定し、その大きさを比較したところ、[ C ]方向の方が大きかった。」
(1)[A]鋼板 [B]120°[C]60°
(2)[A]鋼板 [B]135°[C]30°
(3)[A]鋼板 [B]135°[C]60°
(4)[A]アルミニウム板 [B]120°[C]60°
(5)[A]アルミニウム板 [B]135°[C]30°
エックス線を照射する物体を鋼板(鉄の合金でできた板)からアルミニウム板に変えると、後方散乱線の空気カーマ率は大きくなります。
また、散乱線が分布する散乱角は、0°から180°までで表します。
散乱線の空気カーマ率は、散乱角が90°のときに最も小さくなります。
これはコンプトン効果による散乱線の分布角度などが影響しています。
したがって、空気カーマ率は、120°<135°、30°>60°となります。
問7 単一エネルギーの細いエックス線束が物体を透過するときの減弱に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)半価層の値は、1MeV程度以下のエネルギー範囲では、エックス線のエネルギーが高くなるほど小さくなる。
(2)軟エックス線の場合は、硬エックス線の場合より半価層の値は大きい。
(3)鉄の半価層は、鉛の半価層より小さい。
(4)半価層h(cm)は、減弱係数μ(cm-1)に反比例する。
(5)半価層の10倍の厚さでは、エックス線の強度は20分の1になる。
(1)は誤り。半価層とは、物体にエックス線を照射したとき、エックス線の強度が半分になる物体の厚さのことです。半価層の値は、1MeV程度以下のエネルギー範囲では、エックス線のエネルギーが高いほど「大きく」なります。
(2)は誤り。軟エックス線とは、エネルギーが低いエックス線のことで、硬エックス線とは、エネルギーが高いエックス線のことです。上記の(1)の解答からわかるように、硬エックス線(エネルギーが高いエックス線)の方が、半価層の値は大きいので、軟エックス線(エネルギーが低いエックス線)の方が、半価層の値は「小さく」なります。
(3)は誤り。原子番号の小さい物体ほど、半価層の値が大きくなります。つまり、鉄の半価層は、鉛の半価層より「大きく」なります。
(4)は正しい。半価層h(cm)と減弱係数μ(cm-1)は、「h=loge2/μ」の関係式で表すことができ、反比例していることがわかります。たとえば、μの値が1から2に大きくなれば、hの値は2分の1に小さくなります。
(5)は誤り。半価層の10倍の厚さでは、(1/2)10となり、エックス線の強度は1024分の1になります。
問8 エックス線装置を使用する管理区域を設定するための外部放射線の測定に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)測定器は、方向依存性が大きく、測定可能な下限線量が小さなものを用いる。
(2)測定器は、国家標準とのトレーサビリティが明確になっている基準測定器又は数量が証明されている線源を用いて測定実施日の3年以内に校正されたものを使用する。
(3)測定器は、サーベイメータのほか、積算型放射線測定器を用いることができる。
(4)測定は、あらかじめ計算により求めた1cm線量当量又は1cm線量当量率の高い箇所から低い箇所へ逐次行っていく。
(5)測定点の高さは、作業床面上の約1.5mの位置とする。
(1)は誤り。測定器は、方向依存性が「小さい」もので、測定しようとする線量を読み取れる感度を持ったものを用いることとされています。
(2)は誤り。校正は「1年」以内です。校正の頻度はよく出題されるので覚えましょう。
(3)は正しい。電離箱式サーベイメータ等のほか、フィルムバッジなども用いることができます。
(4)は誤り。測定の際は、線量の「低い」箇所から「高い」箇所へ順に測定していきます。
(5)は誤り。測定点の高さは、作業床面上約「1m」の位置とすることとされています。立って作業する場合、お腹のあたりですね。
問9 特性エックス線に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)特性エックス線(Kα)の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きくなると長くなる。
(2)特性エックス線は、連続スペクトルを示す。
(3)管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な最小値であるK励起電圧を下回るときは、他の系列の特性エックス線も発生することはない。
(4)K殻電子が電離されたことにより特性エックス線が発生することをオージェ効果という。
(5)K系列の特性エックス線は、管電圧を上げると強度が増大するが、その波長は変わらない。
(1)は誤り。特性エックス線の波長は、ターゲット元素の原子番号が大きいほど「短く」なります。ちなみに、Kαとは、K殻とL殻の間で発生した特性エックス線のことをいいます。
(2)は誤り。特性エックス線は、「線スペクトル」を示します。連続スペクトルは、制動エックス線が示すスペクトルです。
(3)は誤り。管電圧が、K系列の特性エックス線を発生させるのに必要な限界値であるK励起電圧を下回るときでも、L系列など他の系列の特性エックス線も発生することがあります。
(4)は誤り。オージェ効果では、特性エックス線を発生させる代わりに外殻の電子を飛び出させます。オージェ効果では、特性エックス線は、発生しません。
(5)は正しい。特性エックス線は、固有エックス線とも呼ばれ、元素固有の波長を持っています。そのため、管電圧や管電流を変えても、その波長は変わりません。
問10 ろ過板に関する次の文中の[ ]内に入れるAからCの語句の組合せとして、正しいものは(1)~(5)のうちどれか。
「ろ過板は、照射口に取り付けて、透過試験に役立たない[ A ]エックス線(波長の[ B ]エックス線)を取り除き、無用な散乱線を減少させるために使用する。
しかし、[ C ]などで[ A ]エックス線を利用する場合には、ろ過板は使用しない。」
(1)[A]硬 [B]長い [C]エックス線回折装置
(2)[A]硬 [B]短い [C]蛍光エックス線分析装置
(3)[A]軟 [B]長い [C]蛍光エックス線分析装置
(4)[A]軟 [B]長い [C]エックス線CT装置
(5)[A]軟 [B]短い [C]エックス線回折装置
一般的に10keV以下のエックス線を軟エックス線、100keV以上のエックス線を硬エックス線といいます。
軟エックス線は、エネルギーが小さく波長の長いエックス線です。
一方で、硬エックス線は、エネルギーが大きく波長の短いエックス線です。
ろ過板は、厚さ1mm程度の金属板ですが、軟エックス線はこれを通り抜けることができません。
蛍光エックス線分析装置では、軟エックス線を利用しますのでろ過板を使用しません。
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